PART1 Epilogue

「桜木リンタロウが生きている?」
高層ビルの一室、壁一面のガラス窓を背にして、年嵩の男が若い男に尋ねる。若い男は目を細め、軽く首を傾けて、訂正するように答える。
「正確には、桜木リンタロウとして茂上ハルキが生きている。当初の予定では、2014年に桜木リンタロウが茂上ハルキの起こす『事故』によって死亡し、茂上ハルキは2104年に戻るワームホール内で消滅するはずだった」
「そうだ。桜木リンタロウは茂上ハルキの曽祖父だから、桜木リンタロウが死亡すれば茂上ハルキは存在しない事になり、未来に戻ることができなくなる」
「そう、そのはずだった。だがどうやら2104年に戻るワームホールに、茂上ハルキは入らなかった。そして桜木リンタロウとして21世紀に残り……」
そこで若い男は言葉を切った。確認できている事実はそこまでだ。ややあって続ける。
「恐らく当時未開拓だったワームホール研究を独自に進めて、時空を行き来する方法を見つけたのかと」
年嵩の男の貌に憂いが落ちる。
「『桜木リンタロウ』。この名前の男が時を超えて出没することに、我々は気付いた。過去と未来、時代のあちこちで、彼は歴史に介入している。我々『ケルベロス』は『時の番人』として彼の存在と行動を見過ごすことはできない。好き勝手やってもらっては困るのだ。我々は何年もかけて彼を探し回った。そして彼が20世紀末に生まれたことを突き止めた。どんな手を使っても、桜木リンタロウをこの時空から永久に消滅させるのだ」

若い男は窓の外を見遣り、思索に耽る。
茂上ハルキと桜木リンタロウはもはや同一人物だ。そして恐らく、今回の『ケルベロス』の茂上ハルキへの介入がそうさせたのだ。が、勿論想定外だ。しかし……果たしてこの『入れ替わり』は偶然か?
「彼は入れ替わるべくして入れ替わった……」
思いついたままに呟く。どこまでが意図された結果であり、どこからがアクシデントなのか。どの事象に誰の意志が働いているのか。
「桜木リンタロウは、そもそも茂上ハルキとして存在している……?」
21世紀、タイムトラベルの知識と技術は殆ど発達していない。それに対してITTAの研究員であった茂上ハルキは、タイムトラベル分野のエキスパートとしての知識と経験をたっぷり備えている。時空を駆け回る『桜木リンタロウ』はそもそも茂上ハルキの知識をもって存在し得ると考えるほうが自然かもしれない。茂上ハルキのタイムトラベルも、桜木リンタロウの死も、元々すべて必然だったとしたら?
「……何れにせよ、また彼を追わねばなりませんね」
物語は始まったばかりだ。
新宇宙暦元年。窓の外には荒廃した都市が、ところどころで噴煙を立ち上らせ、色褪せた西日に照らされている。

8弦ギター女性ボーカルロックバンドKALEIDOSTYLEのオフィシャルWEBサイト