PART2 Chapter3 —革命の夜—

<前編>

***

未来はいつも残酷な光景を描く

過去の足跡をたどって

歪んだ時空へ出かける

運命はどこで迷うのか

時空を支配する神よ

絶望の終末に一筋の光を

***

 クーデター前夜、トーキョー・シティの上空に月はなく、星の代わりにビル街の灯りがまたたいている。ネオ・ホンコン・シティの熱気とはうってかわって、青白い街の灯も黒い雑踏も静かに静かに呼吸している。
 芽吹き始めた桜の枝の間をひんやりした夜風が流れていく。
「……久しぶりだな、東京は……」
ワームホールから抜け出たリンタロウは深呼吸して、ふと呟いた。続いてミキ、ヤマトが現れ、最後にエビスマルが降り立ってワームホールは闇の中に消えた。
「東京に来たことがあるの?」
「まあ、たびたびね」
 リンタロウやエビスマルのように日本名を持っていても国外で生まれ育つ者は珍しくない。世界政府時代に国境が白紙に戻されたためだ。すべての人間が地球市民として扱われ、世界中どこへ行っても国籍を問われることはなかった。旧体制に貧しさに喘いでいた人々を虐げていた悪政と経済不均衡は、世界政府の名の下に滅ぼされ、すべての人間が自由で、豊かな人生を楽しんでいた。自らを上流である、正統であると信じ、異端と変化を忌み嫌っていた古い世代は、時代の流れの中で、老い、葬られていった。
 その亡霊を呼び覚ましたのが復古主義である。その潮流は宇宙歴1400年代に起こった。民族固有の文化が喪われてゆくことを嘆いた知識人たちが、かつての貴族階級と結びつき、更にはバーチャル・ゲームの世界に押し込められていた戦闘欲求を呼び覚まし、退屈に飽きていた若者たちが軍国主義的な憧れから次々と復古主義の流れに迎合していった。
 いつの時代もリアルな感触は人を魅了するものである。
 徹底した平和教育でも抑えきれない人間本来の欲望や野蛮性を、世界政府はバーチャルな娯楽に置き換えることで解決しようとした。音楽も芸術もセックスもドラッグも暴力も、すべてコントロールされたバーチャルワールドで愉しむことができた。
 リンタロウも覚えがある。
 かつて「本物の音楽」を生み出す感覚に魅了され、時空のルールを破りそれまでの人生のすべてを捨てたことがあった。繊細な者ほどバーチャルの世界では満足できないのだ、と彼は感じていた。いかに本物そっくりに作られた音でも、実際に弦が震わせる空気の温度との僅かな差異を嗅ぎ取ってしまうのだ。そして存在しない音を耳が、鼓膜が、細胞全体が求め、そのたびに切なさが募り、本物に出会った時、人を狂わせるほどの魅力を放つのだ。
 ともあれ復古主義は隆盛し、世界政府が禁忌としてきた戦争を避けるために、世界政府は自らを解体し、無血革命によって新宇宙歴が始まったのである。
 新宇宙歴施行後、世界は緩やかに退化していった。知性と理性に裏付けられて美しく発展してきた管理社会は、老朽化した壁の割れ目から内部でひそやかに成長していた黴が滲み出るように、あちこちで綻びを見せはじめた。平等を尊んでいたはずの民は差別の種を探し、学び成長する歓びは怠惰の愉楽に取って代わり、満ち足りていたはずの精神は飢えていた。ぎりぎりで保っていた資源のバランスはあっという間に崩れ、経済はあちこちで破綻し、最後の戦争から二千年かけて築き上げられた高度な平和的社会は僅か半世紀で崩壊の気配を匂わせていた。
 日本という国は、建国当初より、島国特性で排他的な国民性であった。他の文化圏に例を見ない独自の文化が育ち、高度な精神性によって発展させてきた。国民は自国民とその他の国籍・人種とを明確に分けて捉え、時に友好的に、また時に差別的に、「外国人」として対峙してきた。それは世界政府時代でも顕著なまま残り、この時代多くの民族の混血が進んだが、日本においては最も混血が進まなかった。しかし二千年という長い時間の中で、徐々に日本民族はその人口を減らしていった。
 新宇宙暦を迎え当然のように日本国として復活を遂げたが、その国民の九割は既に純血の日本民族ではなかった。十年も待たずに世界的な経済危機に巻き込まれ、食糧は配給制になり、失業者が溢れ、都市部の治安は悪化した。一縷の望みをかけて全財産をつぎ込み宇宙移民に応募する者が増え始めた。各国で発行されている移民パスのナンバーは、国籍に関わらず全世界で一元化された通し番号で、その桁数は地球の全人口を上回る。移民の長い列に加わった人々の心中は、新天地への希望と一向に順番が回ってこない焦燥感とでいっぱいだった。

 夜半近く、リンタロウ一行はトーキョー・シティの中心近くにある森の入口に居た。古くからの住宅地の一角で、付近一帯がクーデターの首謀者の屋敷である。
「……ここからどう警備を突破するか……」
「ちょっと待って、王女」
 身を乗り出したミキをエビスマルが制する。
「こん中入ってくださいな」
 エビスマルの前の闇がフォン、と小さく歪み、小ぶりのワームホールが現れた。否、ワームホールは光輪だが、これは光る球体だった。一行がその光の球体の中に入ると、球体は人の輪郭の形に沿って変形する。
「なに、これ……」
「しっ」
 光に包まれながら森に入ると、ミキは不思議な違和感に囚われた。その正体が何なのか分からないまま進んでいくと、崩れかけた城壁が現れた。
 城壁の一部が門になっている。両側には門番が左右一人ずつ、それぞれドーベルマンを従えて立っている。
「……!」
 ミキとヤマトは反射的に身を屈めた。しかしリンタロウはそのまま進んでいく。
「ちょ……あぶな……」
 言いかけたミキの口元にエビスマルが指を立てる。
「大丈夫ですよ」
「……え……!?」
 堂々と進んでゆくリンタロウに、門番も番犬も微動だにしない。
「さ、間を空けずに進んで下さい」
「これ……どうなってるの……」
 険しい顔付きの門番と今にも吠え掛かりそうなドーベルマンの目前を、光をまとった一行はするりと通り過ぎる。
「一体どうなってるっていうの……」
 ミキはただただ驚いていた。
「時間を止めているんです、一時的に」
 そのまま広い庭を通過し、コンクリート造りの屋敷に入り込む。ここでも、閉まっているドアは素通りして開いている窓から易易と忍びこんだ。家中の所々に何かの動作の途中の人物が立っていたり、座っていたり、歩いている途中で宙に浮いていたりしていたが、その間を一行は難なくすり抜けて進んでいった。家の内部は無機質な外観とは正反対に日本風のインテリアが広がっていた。板張りの廊下の中央には長い朱の絨毯が敷かれ、左右には襖が並ぶ。白壁の床と天井の境目が古材で縁取られ、一定間隔でランプが灯っている。やがて突き当りの大きな両開きの扉の前に着いた。そこだけは襖ではなく艶やかな木製で、繊細な花鳥の浮き彫りが施されていた。
「この中だ」
 この中にいる。クーデターの首謀者、日本民族の権利復活を願う男が。
 その場に居た全員が、なぜだかそう確信していた。3階建ての最上階、左右対称に襖が並ぶ廊下の突き当り。他より一層重厚なその扉の向こうに。
「さあ、姫。思う存分闘っていらっしゃい」
 ドアの前で先頭に立っていたミキが振り向くと、リンタロウが僅かに微笑んで、皆を包んでいた光が消えた。

<中編>

 それは皆が想像していたよりも小柄で、思慮深く温厚そうな人物であった。瞬きするとき頬に影を落とす睫毛の長さが、その表情が、どことなく中性的な雰囲気を感じさせる。身に纏っているのは日本国海軍将校の礼装である。
「ミキ王女か」
「……ええそうよ」
「お目にかかれて光栄です。それもわざわざ足をお運びいただくなど……本来でしたらこちらからお目通り願ってもお会いできぬ雲の上のお方ですのに」
「殺しに来たと分かっていて目通りが許されるわけがないでしょう」
「そんな物騒なことは微塵も。ただ私たちはこの国の未来を憂えております。どうか姫、日本国の復権のため」
「黙りなさい。この国のことは父が最も憂えているわ。無礼な物言いとこの愚行を今すぐにやめなさい」
 ミキの声が幾分か上擦っている。後に引けぬという使命感だけでここまで乗り込んできたが、敵の裏と先を読んで駆け引きができるほどの場数を踏んできてはいない。
 一方、反逆者の瞳と声音が低く沈む。
「……私は今、指一本で貴女を包囲できます。拘束し、拷問にかけ、殺害することも、一生幽閉することも」
「そこまでにしておくんだな」
 今度はヤマトが遮った。
「そんな愚行は俺が止める。その指が動く前に、腕一本で貴様を切り刻んでみせようか」
「……」
 反逆者は沈黙し一行を順に眺め渡す。
 ややあって静かに語りだした。
「御存知の通り、我々軍部は世界中から食糧を運び国民に配給しています。しかし食糧はもう、どこからも入ってきません。王女、いま配給の8割が『キューブ』です。備蓄された僅かの食糧を掻き集めて『キューブ』を作って配給しています。それすら不足し、民の間には不安が広がって、もう押しとどめることはできない」
「そんなことは政府も王室も承知しているわ。あなたがたは私たちに取って代わって、食糧問題を解決できるとでもいうの?」
「できません。食糧はいずれ底をつきます。それもそう遠くない……王女、あなたが成人する頃には恐らくこの国の農業生産はゼロになるでしょう。世界政府崩壊後、日本国は領土に暮らすすべての民を国民として保護してきました。国力が漲っている時節であれば何の問題もないでしょう。しかしもうこの国は、否、この星の人類は終末期を迎えています。我々人類はいずれ死に絶える……この期に及んで綺麗事を言っている場合ではないと判断したのです。世界中の人々が外惑星への移民を進めています。移民パスは日本でも発行されていますが、一般のパスではいつまでもシャトルへ乗れない。日本だけです、いつかパスの順番が回ってきてシャトルのチケットが送られてくるなどと信じて疑わないのは……あれは永遠に回ってきません。食糧が尽きる方が早い。そして我々が独自に計測したところ、食糧以前にパスの発行ナンバーのかなり早い段階でシャトルの燃料が尽きます。呑気な国民はこの枯れ果てた地球に置き去りにされるというわけです。我々は、一刻も早く、せめて純血日本人だけでも地球から脱出させたい。国民全部は無理でも、純血日本人だけなら、今なら、なんとか優遇パスを手に入れられるはずです。日本国の純血民族の遺伝的優位性についての資料もある。古来よりこの日本列島に生きてきた純血日本人は、アレルギー疾患の発症率が世界的に見ても低い。移民先に適応し子孫を残す期待値は十分にあります。データも揃っています。王女、もし我々の意志を汲んでくださるなら、なにとぞ貴女の権限で、移民センターに働きかけて希望する純血日本人の分の優遇パスを発行してください。これが我々の希望です」
 話を聞きながらリンタロウは室内を眺め回した。木と漆喰の古風な壁。外観は殺風景なコンクリート造だったが、内装は洋館風で、高い天井には花弁を象ったアンティーク調の照明が付いている。アーチを描く細長い格子窓の外には星が瞬いている。
 ——この星の寿命か……。
 星空を眺めてリンタロウは想いを馳せる。かつて未来は希望に満ちた光り輝く存在だった。進んだ技術、洗練された文化、無駄のない社会、進化した聡明な人々……その先には結局、資源を食い散らかし、血を流し合い、同胞を踏みつけても生にしがみつくしかない人間の姿があるのか。
 タイムトリップを重ね、見たかったのはこんな未来か。
 いや、しかしどこかで、こんな未来を、終末を、予感していた気がする——。
「優遇パス……確かにね。実は移民センターは後ろ盾がはっきりしていないのよ。突然できて、旧世界政府の機関のひとつなんだろうけど、正体は有耶無耶で責任者もよく分かっていない。闇雲に発行しているパスの順番が永遠に回ってこないなんてのも有り得る話だわ」
 痛いところを突かれたな、とヤマトは唇を噛んだ。王家は移民パスには非関与を通してきた。出処の信憑性に疑いがあったが対応策を出せなかった。そうこうしているうちに移民パスの発行は世界中に広まっていった。日本国からの正式な発表をしないまま、国民は情報を手に入れた者から我先にとパスを申請しているのが現状だ。
 そしてそのパスが効力を持たないと、ここまではっきりと言われてしまっては。
「でも……日本国王家として国民を守る立場としては、純血日本人だけを優遇することはできない。……あなたは優遇パスを取り付けて、その後どうするつもりなの?」
「我々の持つ名簿に照らして適切に配布します。」
「それを私に信じろと言うわけ?」
「王女、こちらの希望に耳をお貸しいただければ王室にも民衆にもどの人間にも一本の刃も向けぬことを誓いましょう」
「……承知したわ。日本国王室の名を以って、当局に掛け合いましょう」
 反逆者は無言で深く、深く頭を垂れた。
「あなた、名は何と?」
「桔梗と申します」
「では桔梗、必要な優遇パスの正確な人数と名簿、純血日本人の遺伝的優位性についての資料を今すぐ用意して」
「御意」
 頭を垂れたまま応える。
「あなたは優遇パスを持っているの?」
「私は純血ではありませんので、不要です」
「……あなたは……」
 それでいいのか、と問いかけそうになり、ミキは思いとどまった。それこそ意味のない質問だ。信念に基づいて行動しているという大義名分を崩さないため、この男は自分自身すらも救済できないのだ。それが本心かどうかなど知る由もないし、知ったところで益もない。
 身を翻した王女に続いて、一行は部屋を後にした。エビスマルはふと振り返ったが、桔梗は頭を下げたままだったので、表情の変化は判らなかった。

<後編>

 夜もだいぶ更け、午前2時近い。といっても表通りに出れば車もひっきりなしに通り、深夜も開いている店も多いので街は明るい。その明るい闇の中を四人は無言で歩いている。
「……王宮へ行くわ」
「は」
 ヤマトが応える。
「ミキ、キューブとは何だ」
 リンタロウが王女に尋ねる。
「加工食糧の一種よ。かつてカプセル型の食糧が普及した時代があったけれど」
 その時代のことはリンタロウはよく知っていた。
「その進化型。現代人の体質に合わせて調合されている人口食糧よ。登録されている全国民の性別・年齢などの基礎データ、DNA情報、毎年の健康診断データからその人に最適な栄養素と薬品を調合し、配布しているの」
「……薬品?」
「ええ、生活習慣病やアレルギー体質のね。医療費の効率化の一環よ。個人に任せておいたら治療しないまま放置して、結果的に莫大な費用がかかることもあるから。その予防も兼ねているわけ」
「じゃ、キューブを取り違えたらえらいことになりますね」
 横で聞いていたエビスマルが口を挟む。
「勿論そんなことが起こらないよう厳重に管理されているわ」
「ですよねー」
 ——取り違えもだが……
 リンタロウは眉をひそめたが、それ以上何も言わなかった。

 王宮は古来よりの、所謂「皇居」にそのまま存在している。その北面、深い濠を渡る門を北桔梗門という。そこに都が置かれて後、数千年の時を経て尚、この地は敷地の殆どを森が覆い、静かな聖地といった風情でそこに在る。
 一行はその北桔梗門を目指す。
 最初に異変に気付いたのはヤマトだ。
「……きな臭い」
 ミキの表情が凍る。何も言わず全速で駆け出したミキをヤマトが追った。
「え?え?ええ?」
 エビスマルが狼狽える。リンタロウが横で呟いた。
「なぜ……クーデターは止めたはず……」
 視線の先、王宮の森の奥に、薄い煙が立っていた。

「お父様!」
 門を抜け森を駆け抜け、そのままのスピードで王宮の扉をくぐり走り続けるミキを援護して、ヤマトが銃と剣で闘いながら、ミキにぴたりと寄り添って走る。爆薬が使われたのだろう、王宮はところどころ小さな火の手が上がっている。ヤマトは扉の前で見張っていた二人を声もなく倒し、廊下ですれ違った乱入者も一人、二人と斬り倒す。階段の踊り場に差し掛かった時、上から身を乗り出した見張りを撃つと、鳴り響いた銃声に建物の其処此処でざわめきが起こる。周囲がにわかに騒がしくなり、侵入者たちが次々と姿を表した。大抵は武器を持っているので、すぐ撃ってくる者、何かを叫ぶ者、どこかへ走り去ろうとする者、廊下は騒然とした。王宮の護りについていた兵士の屍が、既にあちこちに倒れている。
 ヤマトは顔色も変えずに撃ちまくる。狙いを定め、敵一人につき、一発か二発。それで確実に仕留める。間合いに入ってきた敵には左手に持った剣を鮮やかに振り下ろす。王宮に武器を持って侵入してきた時点で大逆罪。酌量の余地はない。彼の使命に忠実に殺していく。
 ミキは周囲に散る銃声と血飛沫に構わず走り続ける。怒りに我を忘れているのか、ヤマトを信頼しきっているのか、その両方か。
「お父様!」
 もう一度ミキは叫ぶ。そこは戴冠の間。王宮内の様々な儀式に使われる。
 歴代の王家の肖像画が並ぶ壁。
 美しい装飾が施された柱が並ぶ先に置かれた玉座。
 王はそこに居た。玉座ごと貫かれて、今まさにこと切れた。
 シャンデリアが大きく揺れ、盛大な音を立てて割れ落ちる。
 毛足の長い絨毯に流れた鮮血が音もなく走る。
「あああああ!」
 駆け寄ろうとしたミキを、この時初めてヤマトが抱きとめた。玉座の、王の前に立つ黒い影に銃口を向けて問う。
「お前は何者だ。王を弑し玉座を汚し国に混乱を招くその目的は何だ」
 影がゆっくりと振り向く。黒い装束に包まれた体躯は筋肉に覆われ、動きに無駄がない。後ろでひとつに束ねた髪は紅い。
「俺は鹿丸じゃ。この日本は今日から変わるのだ」
「お父様!お父様———!」
 ヤマトの腕の中でミキが叫ぶ。
「姫、お別れを。奴は私が食い止めます故」
 そう囁くなりヤマトはミキの身体を放し斬り込んでいった。ヤマトと鹿丸の刀がぶつかり、そのまま拮抗している間に、ミキは父の前に駆け寄り崩折れた。
「お父様……お父様、何故……」
 しかし彼女が見上げた先、王の半分開いた瞳に既に光はなく、ミキを透かして虚空を見つめるだけだった。
「お父様……」
 この仇は必ず。そう思うよりも先に頭には疑問だけが溢れる。
 何を誤ったのだろう。
 何故ここまで、殺されるまでに憎まれねばならぬ。
 民から不当に搾取してきたわけでも、放蕩の限りを尽くしたわけでもない。
 何故。
 血がにじむ程に噛み締めた唇からは嗚咽すら漏れない。かつて父がその大きな手で包み込み愛した白い頬を、熱い涙がつたって足元を流れる父の血の上に落ちた。
 広間の外が騒がしくなってくる。
「姫……っ、これ以上もちません!お許しを」
 言うなり鹿丸の刃を跳ね上げて、ヤマトは広間に入ってきた賊を撃つ。撃ちながらミキに近づいてその手を取る。ミキは導かれるままに広間を抜け、王宮を脱出した。

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